分け合うこと　−　６．夢か現実か　−

私がタクシーを自宅へ走らせた一応の理由。

“もしもこの出会いが恋の始まりだとしたら？
ラブホに泊まるのはあまりにも軽薄だろう。
ならば自宅へ向かい、ありのままを見せよう“

しばらくすると、彼女が目を覚ました。

あっ寝ちゃった。ごめんなさい。
ん？どこに行くんですか？

俺の家に向かっているところ

彼女は黙ったまま、私の肩に頭をあずけた。
“これは・・キター！”
そっと手をつないでみる。恋人つなぎ。
嫌がる素振りはない・・・。
内心、喜びつつも、あまりに理想的な展開に
私自身が驚いていた。

ひでさんが住んでる街・・。

彼女が窓の外を見つめたまま呟いた。
そして地元の駅前でタクシーを降りた。

もう一軒だけ寄ろうか？

えっ？楽しみです！

お酒の勢いで彼女の口調が少し崩れてきつつも
その丁寧な口調や態度に大きな変化はない。
そして、ミサちゃんとダイニングバーへ。
歩いているとすれ違う男達の視線が凄かった。
確かに彼女は他人の目を惹くほどの美人。
そして私の地元にはいないであろう、
大人びた色気あるファッション。

店内に入りカウンター席で呑みなおす。

ひでさんの地元に来ちゃいました。

彼女は微笑んだ。
この時、私は彼女に感心していた。
彼女の手の動きや歩き方や姿勢、
そして会話の仕方が、あまりにも上品すぎる。
アルコールが入っていても変わらない上品さ。

“猫をかぶっているのではなく、素だとしたら？”

私は彼女とのＳＥＸよりも、
彼女がどんな暮らしをしているのか、
どんな性格の持ち主なのか、
彼女のパーソナルな部分に惹かれていた。

“本当の君を見せてほしい”

とはいえ、それは何度か会っているうちに自然と
見えてくるものでもある。
私はとりあえず地元についてトークを展開した。
公園や、どんなショップがあるかとか、
そんな色気のない話にも彼女は喜んでくれた。

あの・・お散歩しませんか？

俺にリードつないで散歩するの！？笑

やだぁ、ひでさん！笑

店を出て、私にとってはなんてことのない
歩きなれた道をただ歩く。
いつもと違うのは、隣に彼女がいるということ。

今日はずっと楽しかったです。

ずっと？

今日、起きた瞬間から。

彼女から出る言葉が本気なのか冗談なのか
よくわからなかったけど私は本気で、

俺はミサちゃんと一緒にいて、楽しいし癒される。
これから先、こんな日がたくさんあるといいな。
ミサちゃんのこともっと知りたいし。

私はこの時点でも彼女の素性は何も知らない。
LINE交換したとはいえ、そのアカウントが
プライベートのものか、実年齢はいくつなのか、
どこに住んでいるのか、彼氏やダンナは？
など一切のことを知らなかった。

ミサちゃん。

はい。

我儘なこと言うけどさ、
今晩、泊まってほしいんだ。
明日、一緒に行きたい場所があるんだ。

演技なのか本気なのか、彼女は戸惑いを見せたあと、

でも何も準備してきてないし・・

そりゃそうだね。笑

とりあえず、ドラッグストアで買い物をした。
ハブラシやシャンプーなどなど・・。

そして自宅へ。
彼女の表情から少し緊張しているのがわかる。

おじゃまします。

玄関先で脱いだ靴を綺麗な姿勢で綺麗に並べた。

まあ、洒落っ気のない部屋だけど・・んっ！

いきなり彼女に抱きつかれた。
髪の香りや首筋の匂いがたまらなかった。
このままＳＥＸに持ち込もうかと思ったが堪えた。
なんとなく、そうじゃない気がした。
彼女はただ甘えたいのだと。

ブサイクな私に今起きているこの現実・・
イケメン俳優にでもなったかのような非日常。

“今更だけど、これ・・現実だよな？”

ミサちゃんに会えて本当に嬉しい。

ひでさん、やだ・・

“な、なんだ？このイケメン主演ドラマは・・”

改めて乾杯しなおそうか？

はい、そうですね。乾杯しましょう。

そして最後は・・ご想像のとおりになった。
ことが終わると彼女はスヤスヤと眠ってしまった。
私も彼女を抱きしめながら眠りについた。