分け合うこと　−　１０．傷だらけのミサ　−

ミサを半ば強引に呼び出して某駅前に着いたが、
ミサからは、その後の連絡がないまま。
車の中からＬＩＮＥを送ってみた。

駅に着いたよ。気を付けておいで。

１５分ほどが経過したが未読のまま。
私はじっとして居られずにコインパーキングに
車を停めると夜の街をあてもなく歩いた。
コンビニで、ミサの好きなドリンクを買った。

“来るのかなぁ、アイツ。”

３０分が経過した頃、着信音が鳴った。ミサだ。

もしもし。急にごめんね。
大丈夫か？今どこ？

少し矢継ぎ早に聞いた。

・・今、着いた・・。ごめんなさい。

少し、涙声に聞こえた。

とにかく今どこ？
〇口の改札出てすぐのところです。
数分で着くからそこで待ってて。
わかりました、ごめんなさい。
ミサ、、オバカ。　笑

通話を終えると私は早足で改札に向かった。
遠くからでもミサの上品な服装は際立っていた。

“アイツ、やっぱり美人だなぁ”

そんな場違いなことを思いながら近づく。
ミサは若干、俯きながらスマホを見ていた。

ミサ！

私を見つけるとミサは笑顔で手を振ってきたが、
その表情は、すぐに泣き顔に変わった。
少々、照れくさかったが、ミサを抱きしめた。
静かに泣き続けるミサの耳元で、

ミサ、ありがと。

ミサは私に顔を埋めたまま頭を左右に振っていた。

ひ、ひでさ、んの・・に、匂いだ・・

彼女の心にある“何か”を猛烈に知りたくなった。

今日は、加齢臭多めにしておきましたｗ

と言うと、ミサは顔を埋めたまま肩を震わせながら
今度は笑い始めた。

やだぁ！あっヨダレつけちゃった。笑

私がミサの真似をして、

えっ？ミサちゃんやだぁ。笑

ミサは泣き笑いしながら私の肩を軽くたたいた。
こんな時、普通の男だったらどうするのだろう？
お洒落な落ち着いたイタリアンとか連れてく？
それともアミューズメント的なところ？
どこへ車を走らせようかな考えていると、

ひでさん。
ん？
なんか、ひでさんに会ったらね・・

照れている様子のミサ。

“ホ、ホテルとか？”

お腹空いちゃって・・ごめんなさい。笑

私は車内で爆笑しつつも、“ごめんなさい”という
ミサのフレーズが、やはり気になった。

“たいしたことではないのに謝るのはなぜだ？”

ひでさんが前に話してくれた、
ラーメン屋さんに行きたいです。
遠かったら別のお店でも大丈夫です。照

遠いっちゃ遠いけど、近いっちゃ近い、行こう！

嬉しいっ！すっごく楽しみです！

ラーメン屋にたどり着くまでの道中は、
ミサと音楽を聞き、一緒に口ずさんだりして
穏やかな雰囲気で過ごした。
４０分ほどでラーメン屋に到着。

ラーメン屋に来るの初めて！

ミサは、ものすごくテンションが高かった。

ん？・・マジで？

はい。子供の頃は親からラーメンは禁止されていて。
学生時代も社会人になっても食べたことないんです。

えっ？本気で言ってんの？

ワクワクと身体を躍らせながら頷くミサ。
まるで某有名テーマパークに初めて来た時の
ようなテンションだった。
店内は混み合っていて少し待つことになったが、
ミサの表情はキラキラしていて、
私は質問攻めを食らう羽目になった。
麺の固さがどうとか、どんな種類があるのかとか、
他にも色々食べてみたいだとか・・

“この子は厳しく育てられたんだなぁ”

せっかくの機会だったので少し学生時代の話題を
振ってみた。習い事や部活のこと。
それについて、ミサは素直に語ってくれた。

“やはり厳しい親の元、育てられたんだなぁ”

ミサの背景が少しだけ見えたところで、
店内に通された。ラーメンが目の前に出されると、
ミサは数枚、写メを撮った。
そしてミサとツーショットの写メも。
かなり気恥ずかしかったけど写真に納まった。
ミサの気が済むと、

わぁ、美味しそう！ひでさん見てぇ！ねっ食べてもいい？

もちろん！早く食べな。笑

周りの客に当然、チラチラ見られた。
まるで、バカップルか貧乏カップルのようだ。ｗ
あまりの彼女の喜びように、
私はラーメンの味に集中できなくなった。

店を出ると私の家に向かったのだが、その車中、
ミサにその話をすると、

えっ！そうなんですか？・・恥ずかしい！
でも、すっごく美味しかったです！

以前から、彼女の上品さを不思議に感じていたが
さすがにラーメンを食べた経験がないとは
思いもしなかった。

“すげー、こんな子が世の中に存在するんだ。”

と思うと同時にまた“ある疑問“が大きくなった。

お嬢様のミサが・・なぜ風俗に？

私の部屋に着き、くつろいでいると、
ミサは抱きついてきた。

ミサは品が良くて、お嬢様みたい。

私、お嬢様じゃないです、普通です。

お嬢様じゃなくて、俺のお姫様だね。

ひでさん、やだぁ〜。笑

軽い冗談でじゃれあってみたが、
やはり、ミサが号泣しながら言った、

“私はひでさんに何もしてあげられない・・”

その言葉がずっと引っかかっていた。
ミサも私も自然と口数が減り無言になった。

ミサ、俺はミサがいればそれで幸せ。
ただただ、一緒に居たい。

ひでさん、私、実は離婚したばかりで・・

あのね・・ん〜ハア、ハア、ハア！

ん？どうした？おいっ、ミサっ！

ハア、ハア、ハア・・ひ、ひで・・

なんと、ミサは過呼吸に陥ってしまった。
苦しみながら何か話したそうにしていたが、
私は即座に処置をし、落ち着かせることに集中。
ミサの手を握り、

大丈夫だよ、ミサ。
慌てずにゆっくり〜

などと断続的に声をかけ続けた。
１５分ほどすると少し落ち着いてきた様子。

ひでさん、ハア・・

私の手を強く握りしめるミサ。

大丈夫。なにも言わなくていい。
ミサが言いたいことなんとなくわかるし。

ハア、怖いからそばにいて・・

私はミサをベッドに寝かせると、
ミサを包み込むように抱いた。

そばにいるから大丈夫だよ。

するとミサは私に抱きつきながら、
しばらくすると寝息を立ててしまった。

“ミサはバツイチなのか。また一つ、
ミサを知ることができた・・。
そしてまた一つの疑問。
なぜミサは過呼吸を起こした？”

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分け合うこと − １０．傷だらけのミサ −

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